<フォト紀行>

真夏のツエルマットに雪が降る 

<Alpine Memory>


2002年8月、念願のスイスアルプス紀行
待望のマッタホルンは2日目になっても姿を表さない。
3日目・曇天のトレッキング中、小雨からミゾレ更に雪に変わり
ハイジの郷も、すっかり純白の雪に埋もれた。



 ツエルマットについて2日目、待望のマッターホルンは未だ姿を見せない。
小雨が降っているが、ホテルに居てもしかたがないので、撮影偵察を兼ねて登山電車でゴルナーグラードに行ってみることにした。小雨で何も見えないのに、展望台は日本人ツアー客で溢れかえっている。早々に雨具を身につけてローデンボーデンまで 下り、谷を越えたフルーアルプまで歩くことにした。
牛や羊がのんびりと草を食むハイジの村(正確にはFindlen)を見下ろしながら歩いていると、雨が強くなって来たので途中の無人放牧小屋でツエルト(簡易テント)泊することにした。
干草の臭いはするが中でツエルトを張れば快適で、晴れればマッタホルンが真正面、撮影には絶好のポイントになるであろう。知らない異国の山中で若干の怖さはあるが、自分なりの作品を撮るための冒険である。山岳山岳写真は早朝と夕方が勝負であり、街中のホテルに泊まっては不可能なのである。

 翌朝は相変わらずの小雨、残念ながら撮影は断念し出発することにした。1時間ほど経つと雨がミゾレに変わり、更に30分ほどで雪に変わった。お花畑が全て純白のベールを被り、可愛そうな羊の群れが半分ほど雪に埋もれてしまった。周りが草原なので、ウッカリすると登山道から踏み外してしまう。標高2500mのフルーアルプのレストランヒュッテに着いた11時頃には、積雪が30cm位にもなっていた。木造3階建て赤と緑色の、おしゃれなヒュッテである。入口前に雪宿りの出来るベランダとベンチが有り、雪だらけの雨具とザックカバーを外して中に入ると、数人のスタッフが食事中であった。どうもプライベート口から入ってしまったらしい。目の前に見えているフロントに行って空き部屋を聞こうとしたら、フランケンシュタインみたいな大男が出てきた。
シュワルツネーガーのターミネーターにも似ているが、名前が分からないのでフランケンと名づけてみた。ドイツ語なまりの英語で、表に出て正面玄関から入り直せという。外は大雪なのにもう一度雪に濡れろというのか・・・
しかたなく再度表に出て、膝上まで雪に潜りながら20mほど離れた正面玄関から入り直してチェックインをした。

 
  フロントで空き部屋を聞くと、1泊120SFという。天候が回復するまで数日泊まるつもりで、もう少し安い部屋はないかというとドミトリーなら2食付で1泊67SF(日本円で6000円程度)という。 ドミトリーというのは相部屋のことらしい。何事も経験、初めてのスイスの山小屋ドミトリーを体験して見ることにした。部屋は4階のA号室というので、木製の階段を登山靴で上がっていると、また例のフランケン男が大声で怒鳴ってきた。そういえば、階段の下にドイツ語で何やら書いてあったな。スイスやフランスの山小屋は日本と同じく、2階から上は土足禁止が多いようだ。部屋は最上階の20畳ほどのスペースに大きなベッドが6個で、日本の山小屋とは比べ物にならない。2階は家族の部屋らしいが、3階と4階の山側がドミトリーで展望の良い側に個室が合計8室ほどである。
1階のレストランに戻ると、大きな薪ストーブが燃えているが客は誰も居ない。高級品ではないが、年代もののテーブルや椅子、ソファーが並んでいる。それからグラスワインのみを注文して、持参のパンとチーズで昼食にする。グラスワインで1杯8SFなので、日本円では450円程度である。他の飲み物のグラスビールやコーヒー、ミネラルウオーターもほぼ同じよう価格であった。外は未だ雪が降り積もっているが、レストランの中はポカポカの薪ストーブが有り快適である。眠くなってきたので、部屋に戻って一眠りすることにした。
デイナータイムの17:30分頃にレストランに戻ると、客は誰も居ないが、薪ストーブは燃えている。どうやら今夜は私一人だけらしい。しばらくするとフランケン氏が、民族衣装のウエイター制服?に着替えて出てきた。客一人のために着替えて出てくる、流石プロ根性である。片言ながら話し出してみると、なかなか親切でコミニケーションも取れてきた。部屋はどうかと聞くので、「少し寒い」というと値段はそのままで3階の展望個室に変えてくれた。晴れればマッターホルンが真正面だから、部屋の中から写真が取れるという。自分はジャパーニーズフォトグラファーだといって撮った写真を見せたりしたことで、待遇も変わったみたいである。昼間のテーブルに戻ると、フランケン氏のウエイターが恭しくワインを持ってきた。ハウスワインだが好きなだけ飲んでくれという。独特なポテトスープから始まる郷土料理のフルコース、とても山小屋とは思えないサービスであった


神は我に味方せず、翌朝は雪は止んだものの展望がない。フランケン氏によると、明日までは晴れ間は期待できないという。明日も同じ部屋を提供するというので、今日はツエルマットに下山して、晴れ予想の明日に再登することにした。往復に5時間くらいはかかるが、フランケン氏の温かい接待と情報を信じて登ってこよう。

下山の復路、雪が無ければ登山電車の駅まで1時間半程度であろうが、登山道も消えて何処が道か判らない。時には吹き溜まりで腰まで潜るなど、思わぬラッセルで3時間もかかってしまった。ツエルマットの街にも雪が降ったらしく、雪が所々に残っている。ホテルのマスターに聞くと、8月に入って市内に雪が降ったのは珍しいらしい。翌日は快晴、雪が解けない内にもう一度フランケンのヒュッテに泊まって、スイスでも珍しい真夏の雪を被ったマッターホルンを撮影することにした。気温が高いためか、草原には雪が残るものの、登山道からは消えている。待望のマッターホルンは、4日目にしてやっと全貌を現してくれた。ここから見るマッターホルンは北壁が多く見えるようになり、頂上部分が鳥のくちばしの様にオーバーハングしている。翌朝は、そのくちばし部分が真っ赤なモルゲンロートに輝き、感動的なシーンを演出してくれた。

 


<記録メモ>

時期:8月中旬
場所:スイス(ツエルマット周辺)
コース:Zermatt−Gornergrat−Findeln-
Fluealp-Zermatt-
Klein Matterhorn)

 



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